親衛隊はユダヤ人の夢を見るか  (『手紙は憶えている』感想)

 

 映画『手紙憶えている』の感想です。ネタバレを含むので、見るつもりのある人はフラウザバック推奨です。

 

 

『手紙は憶えている』あらすじ──

最愛の妻の死も覚えていられないほど、もの忘れがひどくなった90歳のゼブ。ある日、ゼブは友人のマックスから1通の手紙を託される。2人はナチスの兵士に大切な家族を殺された、アウシュビッツ収容所の生存者だった。手紙にはナチスの兵士に関する情報が記されていた。兵士の名前はルディ・コランダー。身分を偽り、今も生きているという。容疑者は4人にまで絞り込まれていた。体が不自由なマックスの思いも背負い、ゼブは復讐を決意し、1通の手紙とおぼろげな記憶だけを頼りに単身旅に出る。

 

はい。このあらすじから分かるとおり、「おじいちゃん版メメント」って感じです。

主人公ゼブは認知症なのですが、起きるたびに記憶を失い、自分が今どこにいるのか、何をしているのか分からなくなってしまいます。(起きるとまず、既に亡くなった奥さんの名前を呼ぶのが泣かせます)(ここら辺もメメントっぽい)

メメントでは記憶を辿るキーが刺青と写真だったのが、この映画では主に手紙だけです。ただ、マックスの立てた計画通りに動くだけ(さらに行く先々のタクシーまで予約してくれているという周到っぷり)なので大分イージーモード。(故にそこらへんのハラハラドキドキ感も薄い)

 

それと、周りが尽く「こんなおじいちゃんが何かするわけないでしょ?」ってな扱いでスルスルとセキュリティを突破していく様が面白いです。特に、ショッピングモールで警備員の黒人が、ゼブの持っている銃を見て「グロックか?………俺が最初に買ったやつだよ」というシーン。(まあアメリカの田舎なんてオープンキャリーができるわけだからなんてことないんでしょうけど)

 

容疑者リストの4人も紛らわしい奴ばかりですが、それぞれナチスにまつわる問題がバックにあって興味深いです。国防軍潔白論、同性愛者の迫害、ネオナチ、逃亡したナチ残党…。

 

ナチの残党刈り映画と言えば、今年の夏に『顔のないヒトラーたち』(公開は昨年の10月)を見ました。残党刈りと言いますか、冷戦下の、半ばナチス時代に触れることがタブーになっていた西ドイツで、若き検事がアウシュビッツ戦争犯罪を裁くために奔走するという内容です。この映画ではヨーゼフ・メンゲレが最大のターゲットのように描かれていますが、史実がそうであるように、結局捕まえることはできません。同様に主要なターゲットと目されていたアドルフ・アイヒマンも、見つかるものの、モサドの手に渡り、ドイツ人自身の手で裁くことはできませんでした。

そんなアドルフ・アイヒマンの捜索を、フリッツ・バウアー検事総長(『顔のないヒトラーたち』で頼れる上司的な存在だった人)を主人公にして描く映画『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』が来年の1月に公開されるので、こちらも注目です。

因みに今年の夏に新作が公開されたX-MENですが、前々作『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』でもエリック(マグニートー)によるナチス残党刈りが描かれていますね。(X-MENの原作者スタン・リーはユダヤ系)

 

 

『手紙は憶えている』の話に戻りますと、この映画、オチありきだったのかなと思ってしまいます。「衝撃のラスト!」という煽りをどこかで見た気がしますが、その最後にあるどんでん返しに若干疑問が残るんですよ。

最終的に、"主人公のゼブもまた、親衛隊の1人だった!"という真実が明かされます。でも、何でそれも忘れてるの?と腑に落ちない。認知症はあくまでエピソード記憶の形成ができないというだけで、これまでずっとユダヤ人と偽って暮らしてきたなら、その記憶は認知症と言えど忘れないはずです。認知症で物語を引っ張ってきて、最後のトリックが認知症じゃ筋が通らないってどういうことやねん。一族揃ってユダヤ式の祭事とかしてたし、ずっとユダヤ人として暮らしてきたはずなので、自分で記憶を改竄してたとか?それにしてもストーリー的に辻褄が合わない。その点『メメント』では、記憶障害を上手く利用して「記憶の改竄」に合理的な説明を与えていました。

新鮮な切り口ですし、それまでのストーリーがたんたんと丁寧に進んでいただけに、そこが引っ掛かってしまいます。なので、 今だったら、他に面白い映画(具体的にはPK)を見に行った方がいいかな、くらいの満足度でした。

 

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