2018年映画ベスト10

前の記事でまとめましたが、今年に見た新作映画は59本っぽいです。

去年まとめたときは、一応「Sがオールタイムベスト級」で「Aはその年のベストテン級」で、というようなことを書いていましたが、正直見終わったときのテンションでなんとな~くポチっとしてるだけなので、そんなに細かい意味はありません。

あまり長く書くと言い訳がましくなっちゃいますが、元々優柔不断な正確で、ビシっと点数をつけたりなんかするのが苦手なので、だいたいこんな感じだよというくらいのバイブスで。Bまでは結構お気に入り、Cでも普通に嫌いじゃないよ、というライン。ベスト10も同様、明確に順位があるというわけではないです。前年もそうでしたが、このランキングは基本的に抱き合わせ受賞みたいな感じ。

 

 

10位『ウインド・リバー

テイラー・シェリダン脚本&監督の、『最後の追跡』『ボーダーライン』に続く現代アメリカ辺境3部作の締めに当たる1本。テイラー・シェリダンが引き続き脚本を務めた『ボーダーライン:ソルジャーズデイ』とのセットです。個人的に、どんどんめでたいシリーズになっている『ボーダーライン』(こっちも全然好きなんですが)よりも、『最後の追跡』くらいの落ち着いた感じが好きだったので、そっちに雰囲気の近い本作は好み。

アメリカで人里離れた田舎といえば荒野がイメージされますが、これは静寂な雪山が舞台。寒々しい景色、常に不穏な空気が漂ってる中で、中盤とクライマックスの2回、効果的にバイオレンスシーンが使われています。特にクライマックス、採掘場に乗り込んだところの「あれ、なんで君らフォーメーション組んでるの?」みたいな変な雰囲気もいい感じなんですが、そこからの回想シーン。犯人グループのイヤ~なホモソーシャルノリの悪ふざけ(「うぇ〜いwほらほらw」「やめろって」「うりうり〜w」「やめ、ちょ、しつこいぞ!」「は?なに?キレてんの…?」みたいな感じ)があらぬ方向に走り出して、やがては取り返しのつかない暴力にいたる事件の顛末。そこから時計の針が現在に戻り最後の戦いへ…という流れで、全体を通しての起伏は少ないように思いますが、ラストに向けてのエモーションの揺さぶりとカタルシスを生むバイオレンスが最高。やっぱりヴィジランティズムしかないよin西部、という映画。

 

9位『フロリダ・プロジェクト』

何かとの抱き合わせ、という感じではないんだけど、今年は家族についての映画が多かったので、そんな感じの1作。強いて抱き合わせるなら『アイ、トーニャ』とか、貧乏白人モノ?。どちらもどうしようもない現実にあって、決して褒められた人たちじゃないし、もっとやりようはあったろうと言えるかも知れないけど、頑張って精一杯生きようとして、その中に一瞬の煌めきが確かにあったんだなあ、としんみりした映画。なんか「母親がふざけすぎ」とか「ちゃんと働け」とか文句垂れてるニンゲン多いけどさぁ、そういう話じゃねーだろバカ、ということですよ。やっぱり一社会不適合者として、うまく"正しい"人間社会のシステムに乗っかれなかった、そこから外れちゃったけど、それでも自分の1番大切なもの(『フロリダ・プロジェクト』では娘、『アイ、トーニャ』ではスケート)だけには本気で、手放すまいとする彼女たちを見て、何故罵れようか!お前には分からねーのか?!一生あったかい部屋で〇井〇二の映画見てろバカ!

 

8位『へレディタリー/継承』

 「家族という呪い」映画。練りこまれた脚本とか豊かな画とか、ショッキングなシーンとか演出とか演技とか、なんやかんや最後にカタルシスが生まれるところとか、まぁとにかく良質な映画だったように思います。個人的な話をすると、とにかく主人公?の息子に感情移入するポイントが多かったので、そこのところが印象に残ってます。日本ではどうなのか分かりませんが、どうやらアメリカだと「これはミソジニー映画だ!」と叩かれてもいるようです。確かにそういう側面もあるとはいえ、しかし、監督にこの映画を作らせた動機が伏せられている以上、そんなズケズケと断罪するのはどうかなと。自分がすんなりとこの映画を受け入れられた理由のひとつに、実際に母権的な家庭の中で育ったことがあります。フェミニストの方々が男性原理社会の中で息苦しさを感じるように、母権的な社会(家庭)で育ち、自分よりも目をかけられる兄弟の傍らにあった身として抱えてきた息苦しさは、どうしてもこの映画で描かれるそれとシンクロせざるを得ない。

あと、今年色々映画を見て気がついたのは、自分が”いたたまれないシーン”が好きだということですね。『へレディタリー』だと、パーティに行くときの「妹も連れてってあげなさい」「…は?」みたいな会話とか、某事故のあとの食事シーンのカチャカチャフォークで食い物いじりながら「……、なに?なんか言いたいことあるの?」「はぁ~、別に?」「えぇ…」の流れとか、嫌だな~と思いながらも、ああいう雰囲気ってあるな~と笑ってしまいそうになります。『ウインド・リバー』もそんなシーンがよかった。

 

7位『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

正直な話、逆張り選出。いや、もちろんめちゃくちゃ好きな映画なんですけど、ただ『バーフバリ』とか『レディ・プレイヤー1』とか『カメラを止めるな!』とか、みんな好き(僕も好きだけど)な映画ばかり「これも面白かったね~」みたいに盛り上がってると、こういうのを入れたくなってしまうというか…。

何が良かったかというと、上で言及した、”いたたまれないシーン”だけで全編出来ているような映画だってところ。誰しも思い当たるような人間の恥部を暴き立てるような映画なので、例えば助けを求めるホームレスを尻目に行き交う人々とか、そういう意味でスウェーデン映画だけれども日本人にも当てはまるような、現代社会に対する批評性がある。タイトルの”ザ・スクエア”というのは、舞台となる美術館の特別展示のことで、「この四角の囲いの中では他者に対する思いやりを持ちましょう」というコンセプトで設置されている。美術館の責任者である主人公は、社会的メッセージを発信するアートなんかやっちゃうくせに、他人のことなんて考えていない薄っぺらな男。そんな男の自己中心的なふるまいが、ゆくゆくは自分の首を絞めていくというストーリーを通して、「じゃあ”ザ・スクエア”の外側では他人を思いやらなくていいんですか?」とタイトルが回収されていく。

とてもイジワルで、そういうところにニヤっとする映画でもあるんだけど、とかくその批評性にヤダみを感じる人も多いみたいですね。しかし、「自分を棚に上げて上から目線で社会を風刺している」という評(映画のタイトルをGoogle検索したらトップに出てきたブログに書いてあった)は全くの見当はずれ。なぜなら、この映画は『ザ・スクエア』というタイトルをつけている点で、まさに自己言及的だから。「アーティストが”ザ・スクエア”を通して社会的なメッセージを発信したとて、(私も皆も、)その枠の外側でも他者に思いやりをもって接しなければ意味はない」というメッセージは、そのまま『ザ・スクエア』と名付けられた、四角いスクリーンに映し出されるこの映画についての話でもある。であればこそ、観客に「カンヌ映画祭だとか高尚ぶって、社会に問題提起する映画見て立派だけれども、実生活ではどうなのさ」と問いを投げかけることができるし、このタイトルを付けてる時点で、恐らく監督も”そういう自分”にも自覚的なんだろうと思う。

なんだかめんどうくさい話になってしまったたけど、基本的にイジワルなユーモア盛りだくさん映画なので、そういうのが好きな人にはおすすめ。あと、スウェーデンにもセブンイレブンあるんだね。

 

6位『万引き家族

 疑似家族もの。実家族の中で疎外感を抱える人間としては、やっぱりこういう映画に救いを見てしまいますね。

如何せん、現在の日本社会が抱える問題全部盛りという感じで、ある種の嘘っぽさもなくはないんですが、子役の上手な使い方やセットの作りこみなど演出力の高さで、この都会の片隅に身を寄せ合って暮らす人々の生活感が生み出されています。

ともかく、”普通の社会”や”普通の家族”に溶け込めなかった人たちの話です。終盤には”普通”の人々の象徴として警察やマスコミが登場し、その”正しさ”を振りかざしてくるんですが、実際には”正しさ”では救われないこともある。彼ら彼女らは、あの歪な共同体の中で輝きを取り戻していたわけですが、歪であるが故に、いつか破綻することも目に見えているという切なさたるや。そして、この映画のテーマは万引きそのものや貧困ではなく、実のところ(貧困が理由で)万引きをするシーンはさほど多くないし、万引きという行為が物語の推進力を担っているわけではない。この映画における万引きという行為は、あくまでも、あの家族を共犯関係にせしめるマクガフィンにすぎない。しかし、一部の残念なネットユーザーたちが映画を見もしないで「犯罪者を主人公にした映画なんて作るな!」と、まさしく”正しさ”という御旗のもとに気に入らない物を攻撃していたのは、笑えないメタなジョークのようで、なんとも悲しい気持ちになりました。

あとは松岡茉優が良いですね、ジャニーズと付き合ってるらしいけど。

 

5位『レディ・バード

処女・童貞的自意識映画。『勝手にふるえてろ』との抱き合わせ受賞。女性版『スーパー・バッド』みたいな映画。結局こういうのが好き。シアーシャ・ローナンといい、松岡茉優といい、なんとも絶妙に突いてくるのがズルい。

個人的には『ヘレディタリー』とか見て喜んで家族に対する呪いを吐き出す自分の中でのバランス取りとして、たまにこういう母親への感謝で締めくくられる映画を見るとやっぱり思うところがあるというか…。

 

4位『若おかみは小学生!

 関織子さんが頑張っている姿を見て脳をシャキッとさせる映画。結局『ペンギン・ハイウェイ』とかTwitterで過剰に盛り上がってただけで、こっちの方が断然アニメーションしてるアニメ映画。やっぱりジブリ仕込みだな~という水とか食べ物とかの作画がよかったです。記号的消費をやめろ。

1人の少女の成長譚として、セラピー映画としてもよかったんですが、自分としては「他人に対するサービスを通して自他に変化を促がす」というテーマに『大統領の執事の涙』と近いものを見ました。

2018年『若おかみは小学生!』を見てないオタクは全員FAKE。『若おかみは小学生!』を見て上部構造と下部構造に思いを馳せろ。

 

3位『ブラック・パンサー』

 ブラックムービー枠。今年(2018年)見たブラックムービー→『ブラック・パンサー』『デトロイト』『私はあなたの二グロではない』『バース・オブ・ネイション』。

女性映画としてフィーチャーされた『ワンダーウーマン』をそれなりに期待して見に行ったらガックリ来たので、どうせ黒人映画という政治的な文脈で過剰に評価されてるんでしょとハードルを下げ切って見に行ったら最近のマーベルの中でも抜群に面白かった。月並みな感想ですが、やはり、これ1作でMCUからは切り離して見ることが出来るというのは大きいですね。MCUという文脈を超えて、ヒーロー映画の傑作と位置付けられるというか。あと、ヒーロー映画の陥りがちな点として「悪役のための悪役」がありますが、『ブラック・パンサー』ではキルモンガーが最高にダークヒーローしててカッコイイのもプラス。

このキルモンガーというヴィランの面白いところは、ヒーローであるティ・チャラが”ブラック・パンサー”なのに、思想面ではキルモンガーの方がブラックパンサー党と同じことを主張しているという点ですね。対するティ・チャラの思想は、閉じられたワカンダの中の平穏を守ろうとする自国第一主義で、トランプ大統領に対する批評的な視点が込められています。ここにゲトー育ちのキルモンガーと裕福な王子のティ・チャラという対立があるわけですが、この「アメリカの外で育ったが故に抑圧されてきた歴史を持つアメリカ黒人とシンクロできない黒人」というのは、実はオバマ前大統領のことでもあるのではないかと思います。現実においても、穏健派のオバマに業を煮やして、よりラディカルなBlack Lives Matter運動が起こってきたわけで、そういう現状に対する黒人の葛藤の落としどころの映画なのかなと。

2017年も『ゲットアウト』をブラックムービー枠で4位にしたわけですが、2019年も『ブラック・クランズマン』や『ビールストリートの恋人たち』などブラックムービーがアツそうでうれしい限りです。

 

2位『1987、ある闘いの真実

『タクシー運転手』と『ペンタゴン・ペーパーズ』との抱き合わせ。ジャーナリズム映画セット。細かいことを抜きにしても、サスペンスとしても、歴史・政治劇としてもめちゃくちゃよくできていて、これが製作費150億ウォンというのもすごい。15億円でこれだけいいもの作れるのに、日本映画何やってんの?あと、登場人物がとにかく渋くて格好いい。俺も酒飲みながら警察に歯向かう検事になりたい。

 いつだか、『ペンタゴン・ペーパーズ』について、Twitterの賢いお方が「中国やロシアだってわけでもないのに、アメリカくらいで表現の自由が、ジャーナリズムの意義が、とか言ってもねぇ」と冷笑していたのを見ましたが、そういうことを言ってると、いざという時に何もできなくなるぞ、という話なんですよ。『1987』も『ペンタゴン・ペーパーズ』も、本当に危険だった、いざという時にちゃんと戦ったからこそ、今の民主的な社会を保てていて、そして次にいつまた同様の危機が訪れるか分からないからこそ、スピルバーグ監督なんかはこの映画を通してエールを送っているわけで…。

まあ、2018年も面白そうな韓国映画はたくさんやっていたんですが、なんやかんや劇場でかかってるのでは、『1987』と『タクシー運転手』のほかには『THE WITCH』しか見られなかったのが心残りでした。(特に『犯罪都市』が見たかった)

 

1位『スリー・ビルボード

省略。一回ブログに書いたし、今(2019/01/13現在)言及したら負けな気がする。