Fuck Swag-i ___寸借詐欺には気を付けよう。

タイトルの通り。それ以上でも以下でもない話。

 

よく、「自分は詐欺に引っかからないと高を括っている人ほど詐欺に引っかかりやすい」という話を聞く。その意味で言えば、僕は特段「自分は絶対に引っかからないね」と自信を持っていたわけではないように思う。と言っても、心の底では、多少そう思っていたのかもしれない。まあ、もう既に起こってしまったことだし、今となっては引っかかる以前の自分はこの世に存在しない。この世に存在しないもののことなど、思い出せない。ひとつ言えるのは、自分がそれほど詐欺に対して無知だったわけではなく、しかし、それほどに平常から疑り深さを発揮できる鋭さを備えていたわけでもないということ。

そうすると、なぜ今日の僕は寸借詐欺に引っかかってしまったのか、曖昧で混乱した思考の線を辿り、事件に至るまでを俯瞰して思い起こすことは、なにか推理ゲームをしているようで面白くもある。また、僕の自分の頭の中を整理することは、ナラティブセラピー的な意味で精神衛生にもいいことだし、なにより警察に駆け込んだ時、(といっても寸借詐欺では警察は取り合ってくれないようだけど、)当日に記した日記としてこのブログが何かの意味を成すこともあるかもしれない。あるいは、何かのきっかけでこれを読んだ人が詐欺に気を付けてくれたり、もしくは、同様の手口の詐欺に遭った人に対する何かの慰めになるかもしれない。そういった目的で、今日1日と、これまでの人生の中でリンクする出来事をまとめていきたい。

 

まず、そもそもであるが、精神状態が不安定な時ほど、冷静な思考ができないということを改めて痛感させられた。「詐欺に引っかかりやすいか否か」の話とも関係するエピソードだけど、自分は3、4年ほど前に一度、詐欺に「引っかかりかけた」ことがある。その当時は再々々履修がかかった語学の授業や演習系の授業をいくつも取っていた上に、ゼミで進級のための論文を書いていたこともあり、非常に忙しく、他のことを考える余裕がこれっぽっちもなかった。そんな時、スマホAmazonから「支払いが滞っている」旨を伝えるショートメッセージが届いた。なぜメールアドレスを登録しているAmazonからショートメッセージが?今考えれば、一目瞭然である。しかし、恥ずかしながら学生ローンを借りたり、リボの返済額をアレコレいじっては時々クレカの支払いを滞らせていた当時の、それも上述のように課題に追われていた自分にとって、判断を鈍らせるには充分だったようだ。

「とりあえず電話をかけてみよう」僕の下した選択は、思考の放棄だった。呼び出し音が鳴る。電話に出たアンちゃんは、こう言った。「お客様、カリビアンコムというサイトを閲覧されていますよね?その料金が…」もちろん、全て聞くまでもなく、カリビ…と聞こえた時点で察した。あとはもう、如何に適当なかたちで電話を切るかということしか考えていなかった。「払う」と言えば、嘘でも言質というか、法的な何かが発生するかもと思い、「払わない」と言えば、面倒な反応が予想される。「あ~、ちょっと考えときます」と返して、会話を終わらせた。

すごい下らないことだけど、やっぱり参っていると思考は狂わされるのだ。しかし、そのまま「カリビアンコム」にノセられるほど、愚かなわけでもない。といったくらいの、僕の”詐欺感度”を示すエピソードである。

 

そこで、今日の話に戻る。僕は2週間ほど前から片方の耳が聞こえづらく、病院に通っている。その病院は先週はじめて伺った場所で、申し訳ないけど、診断が少しどうなのかなという部分がある。前回診断された病気と若干症状が違うように感じるところがあり、今回はそこら辺を聞いてみたかった。のだけど、流れ作業的に診察を済まされたり、なんの説明もされずに急に鼻に鉄の棒を突っ込まれたり、あまりに雑に扱われていることに面食らってしまった。挙句の果てには、僕の質問しようとしていたことを遮り、「はいはい、もういいですから、じゃあお大事に」といった具合で追い出されるようなかたちになってしまった。

自分でも不思議なんだけど、これが殊の外こたえた。言ってしまえば、正直そんなに大したことでもないのに、なぜか心がひどくどんよりとして、歩くのも億劫になってしまった。何か溜まっていたストレスとも関係しているのかもしれない。ともかく、そうして近場のマックに駆け込み、コーヒーを飲みながら本を読んで、気を紛らわしながら1時間半ほどを過ごした。

そうすると少し落ち着いてきたのか、わざわざ外出したんだし、マックからすぐ近くのところにある映画館にでも行こうかと思い立った。とはいえ気分は優れないまま。とりあえず、一服して考え直そうと映画館の手前にある喫煙所に足を運ぶ。前置きが長くなってしまったけれど、この喫煙所で寸借詐欺に見舞われることとなった。

 

煙草を吸い終わったあたりで、その人に話しかけられた。身長は小柄で160cmほど。少し太めの黒縁メガネに、銀髪のポニーテール。グレーのジャージのようなラフな格好で、バックパックを背負っていた。曰く、フリーランスの(たしか)建築設計士で、コロナ禍で仕事が減っているのもあり、この機会にと広島から東日本各所を転々と旅行しているのだという。それが、急いでいるときにバックパックの横ポケットにスマホと財布を入れたのを忘れていたら、いつの間にかスられてしまい、仕方がないのでとりあえず新宿まで歩いて向かいたいらしい。再び煙草に火をつけるうちに、「新宿まで歩いて行きたいからスマホで道を見せてくれ」→「…よかったら広島まで帰る深夜バスの料金を貸してほしい」と話は発展していく。もちろん、僕だってはじめは怪しいと思った。しかし、物腰の柔らかさや、彼の仕事や最近の時事の話をするに及び、「それなりに知的な職業に就いているが、フリーランスの制約の少なさを活かして旅行を趣味とするポニーテールのオジサン」というのが、とても板について見えるようになってしまった。

それに、僕がこれまで見てきて寸借詐欺というのが、如何にも悲愴な、同情を誘う表情をして、申し訳なさそうに交通費をねだる人たちばかりだったのも災いした。対して、このオジサンは話のディテールが細かく、「警察に行ったけど1000円までしか貸せないと言われた」との泣き言や、「明日絶対に連絡する」といった約束、地元広島の財政やごみの分別の話、自分からマイナンバーカードのコピーを見せて「写真を撮ってもらってもかまいません」とも言ってきた。今思えば、それも色々とおかしいところがあるのかもしれないが、この時の僕は(仮に寸借詐欺だとして、ここまで具体的な話を毎度繰り返して自分の痕跡を残していたら、流石に足がついて捕まってしまうのではないか?=つまり、寸借詐欺ではない?)と、暢気に考えていた。例えば、なぜ財布はスられたのに、マイナンバーカードのコピーだけ都合よく持っているのか。ただの紙切れだ。映画『パラサイト』よろしく、何通りのそれを作ることだって造作もないだろうに。先日の金曜ロードショーでやっていた『パラサイト』を、吹替だからいいやと言わずに再見していたら、シナプスが繋がり、そこで気がつけたかもしれない。

また、決め手となったのはガンダムの話だ。山下公園ガンダムファクトリーに行きたかったというので、「ガンダムが好きなんですか」と返したら、それ以上聞いてもいないのに、いついつまでのガンダムはよかった、最近のナントカってシリーズはダメで、といったことを早口で語り出したのだ。「最初のシリーズは放送当時人気がなくて」という話は自分がなんとなく知っているガンダム知識と一致するし、「あの時自分は小学校の高学年だったからドンピシャだった」という思い出話もマイナンバーカードの年齢と一致するので、迫真性があった。

ところで、僕は顕〇会の勧誘を受けたことがある。高校2年生のとき、塾帰りに本屋で漫画を眺めていたら、「漫画好きなんですか?」と話しかけられた。「大学の漫画友達がみんな最近は漫画読まなくなっちゃって、新しく趣味の友達がほしい」なる話はあまり要領を得ないし、探りを入れてやろうと好きな漫画を聞いても「え~…」だの「ジャンプとか…」だの「最近の漫画は読んでないから、ちょっと趣味が合わないのかも」だのはぐらかしてばかり。明らかにおかしいなと思い、嘘の電話番号を教え、その場は逃れた。顕〇会がアニメイトメロンブックスで、この手のオタクをターゲットにした勧誘をしていると知ったのは、大学生になってからだ。

閑話休題。顕〇会の話は、一応の僕の、最低限の冷静な思考を示すエピソードでもあると同時に、どうして寸借詐欺には騙されたかという一因に繋がる部分だ。つまり、胡散臭い人間の話は総じて胡散臭い、といったイメージが、僕の中に形成されてしまっていた。その点で、あのオジサンがペラペラと一人でガンダムの話に熱を上げる姿は、「本当」のように見えた。「本当」を持っている人間なら、「本当」なんだと思った。というより、信じたかった。これから、いや、今まさに詐欺を働いている人間が、これほど平然と、楽しそうに、自分の好きなアニメの話をすることなんてできようか?、と。まあ、僕はガンダムのオタクではないから、彼のガンダムトークが表面的だと気が付けなかっただけかもしれないが。

 

また、僕が単に、彼の印象に引きずられただけが原因ではないとも、付け加えておきたい。先に書いたように、今日は病院に行ってからめちゃくちゃダウナーな気分になっており、なんというか、心の鎧みたいなものが、きれいに剥がれ落ちていた。件の喫煙所でTwitterのタイムラインを遡っていたら、「コロナ禍で生活に困窮する若者が駅で物乞いをするも誰も目をかけてくれず…」といったタイトルのYahooニュースが目に入った。オジサンに声を掛けられたのは、その直後だった。自分の弱さと他人の弱さが、不思議とシンクロする感覚があった。自分の思考と目の前の情報をリンクさせてそこに何かの意味を見出すのは、陰謀論にも通ずるパラノイアの兆候だ。しかし、その時は、巡りあわせなんていうほどのことでもないけど、こういうことってあるな、と思ってしまった。普段、金欠の僕の財布には2000円も入っていればいいほうだけど、今日はたまたま病院帰りで、6000円が入っていた。横浜から新宿まで電車で安い路線を乗り継げば500円もしないし、新宿から広島までの深夜バスは今の時期なら安いので5500円くらいだろう。オジサンが「6000円貸してくれないか」と言ったのは、もっともだった。なにより、僕の財布には、ぴったし6000円が入っていたのだから。

 

 

〇グーグルで検索したところ、このオジサンは2016年ごろから、ほとんど同様の手口で、都内や横浜近辺を中心に寸借詐欺を繰り返しているようです。警察、何やってんの??????????????