アカデミー作品賞受賞(仮)作品『スリー・ビルボード』について

タイトルにスリー・ビルボードと銘打ってるけど、2018年に入って2ヶ月経ったので、普通にこれまでに見た映画の感想の総括。年末にランキングをつくろうにも、まとまった記録をつけていないと記憶がアヤフヤすぎてどうにもならなかったので、今年はある程度こまめに記録していきたいと思います。あと、去年ぼちぼちブログを書いていて気がついたんですが、タイトルに映画の名前を入れるとやたら閲覧数が増えます。

 

全体的なことを言うと、この2ヶ月の間で観賞した映画の総数は28本、劇場で観賞した数は8本になります。1月はめっちゃくちゃ忙しかったので、ほとんど2月に入ってから。2月だけだと一月で22本見ていることになるので、なかなかいいペースだと思います。劇場で観賞した映画は、キングスマン:ゴールデン・サークル、新感染、ソウル・ステーション パンデミックデトロイトスリー・ビルボード、バーフバリ 王の凱旋、勝手にふるえてろ、サニー/32、の順で、そこらへんの感想を適当に書き散らしていく。

 

キングスマン:ゴールデン・サークル

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まあ悪くはないんだけど、という感じ。実際2時間半近くある上映時間でもそんなに退屈しなかったし。ただ、前作がぶっとびつつもよくできていたというか、まとまっていたというか、ひとつの作品として完成度が高かったことを考えると、今作は凡百のアクション映画でしかなかったという印象。

決定的に前作と比較して劣っている点といえば、敵に魅力がなさすぎること。前作では衝撃的なシーンで登場して一目で分かるカリスマ性のあったソフィア・ブテラ演じるガゼルですが、今作の敵はチャーリー。前作で死んだと思われた鼻持ちならない気取った金持ちの落第生。見た目に華があるわけでもなく、武器といえばガチャガチャしたロボットアーム、特にひねりもなく悪堕ちしてましたってなことで、最初のシーンだけ噛ませ犬的に使うのかと思えば最後までコイツが出張ってくる。でも噛ませ犬にしか見えないし、だってキングスマンの試験にあんな醜態晒して落ちた奴、どんだけ強かろうが緊張感ゼロでしょ。他にもステイツマンが活躍しないとか、チャニング・テイタム退場早すぎとか、頭撃たれてもそれで復活とか流石にどうよとか、ポピーもヴァレンタインに比べたら色々扱いが雑すぎるとか、ロキシーあっけなく死にすぎとか、マーリンの死に様もやっつけ感がとか、そもそもキングスマンってハリーとマーリンとエグジー以外無能しかいないのかとか、言ったらキリがないけど、この続編を見せられてもユニバース化しますと言われて手放しに喜べませんわな。日本を舞台にしてニンジャマンとか言い出すくらい突き抜けてくれたら、もうそういうもんだと受け入れられるかもしれない。

 

『新感染』&『ソウル・ステーション』

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年明けてすぐに早稲田松竹で同時上映されていたのを見ました。去年のうちに見ておきたかったですねほんと。今年のランキングに入れることはないと思うけど、去年見ていたら多分入ってた。アトミック・ブロンドと入れ替え。哭声と比べてどっちが好きかというと難しいんですね。良くも悪くも新感染は韓国映画臭がしないっていうか、文句なしに世界レベルで、その点哭声は間違えて田舎の変な村に迷い込んだようなおどろおどろしさとか、ガシャガシャ鉄の器で食事するシーンとかモロに韓国映画~!って感じで、そこがやっぱりいいんですよね。

新感染のどこが優れているかといえば、そのメッセージ性というか、表現しようとしていることにあると思います。もちろんジャンル映画的な、それを作ること自体へのこだわりだとか、単にやりたいことをやりましたという映画がダメだというわけではありませんが、やはり現実に還元できるものがあってこそ名作たり得るとも思うわけです。逆に、日本映画界に跋扈している漫画原作のくっだらない実写化作品みたいな、そこそこ売れてる原作に流行のアイドルをあてがってデートムービーでございと手堅くペイさせてもらいますみたいな映画ほどくだらんものはないんですよね。対してマーベル作品が中々すごいのは、あれだけのビッグバジェットなのに、若手のぎらぎらした監督に任せてるところでしょうかね、そこらへんのバランス感覚がMCU帝国を成立させてるんだと思う。

話が反れましたが、新感染の表現しようとしているもの、それは「大人になること」あるいは「男になること」でしょうか。昨年、見ていなかったのであまり情報は入れていなかった自分でも、なんとなくそこらへんは漏れ聞こえてきていたので、今更それを自分が語るまでもないと思いますが、実際に見てみるとなかなかどうしてうまく描かれていたので感動しました。イケメン野球部員のヨングクはジニの好意に気がついていながら、スカした態度でそれをかわし続ける素直になれない童貞だったわけですが、ジニがゾンビになったことではじめて、相手を抱き寄せ、受け入れることができます。ここら辺の、ゾンビとなったジニに食べられる描写というのはセ○クスのメタファーなんじゃないかな。童貞だからわからんけど。マ・ドンソク演じるサンファは、妻が妊娠していながら、その子供に名前をつけられないでいますが、逆に彼は自らの死を前にすることで、親になる覚悟ができたというように見ることができます。そして主人公のコン・ユ演じるソグは仕事人間で家族のことを顧みておらず、おそらくそれが理由で離婚しているんだろうけど、まあとにかく一家を支える父親として全くダメ。それは結局自分の都合を優先して家族に犠牲を強いていたってことなわけですが、ソグは最終的に自己犠牲で、身をもって娘を守ることで真の意味での父親になれる。ここの演出がとにかく皮肉が利いていて、この映画のヒール役である自分本位なバス会社の社長はゾンビ化する前に幼児退行したのと、ソグはゾンビ化する前に娘が生まれた直後の記憶が脳裏をかすめて父親としての自覚を新たにするのとで、とても対照的です。そんなこんなで通低してるテーマやその描き方もよくできてるんですが、普通にアクション映画としても一流。電車とゾンビという組み合わせの中で、電車独特のギミックをふんだんに使っているし、ほとんど密室が舞台でありながらスケール感も充分に表せている。文句なしに傑作でした。

とはいえソウル・ステーションは完全な駄作。全編通して、結局何がしたかったのか全く伝わらない。途中で軍が市民に向かって発砲するところとか、流石に飛躍しすぎてるし説得力もないしで。どういう経緯で製作が決まったのか分からないけど、本当に同じ監督が作ったのか疑問が浮かぶレベル。ヒロインがずっと「家に帰りたい」って行ってたからモデルハウスで死ぬっつってもそんなに皮肉がきいてるわけでもなかったし、というかヒロインのキャラクターが掘り下げられないしエモーションも湧きにくい。せめて、あのヒロインが金持ちと結婚したがってるビッチみたいなキャラクターとして描かれていたなら、モデルハウスの豪華な内装の部屋で死ぬシーンの皮肉にはなってたかもしれない。あるいは、ヒロインのバックボーンとして「幼少期は普通の女の子で平凡な家庭で幸せに育っていた」みたいなものがあれば、モデルハウスの普通の家っぽい部屋で殺されていればエモーションの度合いも変わってきただろうにと思う。

 

スリー・ビルボード

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このブログを書き始めたのが2月26日。スリー・ビルボードがアカデミー作品賞を受賞するだろうと思ってこんなタイトルにしたんですが、ダラダラダラダラ書いたり書かなかったりをしていたところ、結局3本ぶんだけ、スリー・ビルボードにたどり着かずに、しかも結局作品賞を獲ったのはシェイプ・オブ・ウォーターという始末。悔しいのでタイトルは変えないけど。

まあスリー・ビルボードがどれだけよくできていたとか、演技がよかったとか、こういうメッセージがとか、そんなことはどうでもよくて、なんでこんなにスリー・ビルボードが俺は好きなのかというのが言いたくて、今回ブログを更新したんですよね。

それはなにかといいますと、「両親離婚したからなんとなくそういうもんだろと思って母親についてきたけど普通に父親のほうがよかったよ!!!」ってこの感じ!なんですよ!!!

この映画の中では離婚に至った背景とかそういうところは描かれてないし、まず大前提としてミルドレッドが悪い人かというとそうじゃない。なのでここからは妄想半分なんですけど、とはいえかなり個人的に思うところが大きかった。まあ自分語りみたいになっちゃうから適当に読み流してください。

日本に限らずですが、これだけ離婚率も上がって、もはやそれ自体は大したことではないように思うんですが、つまるところ、それって離婚の理由自体も大したことがなくなっているってことだと思うんですよね。当人らがどう思ってるのかは知らないけど、子供の側からすりゃあ、大したことない理由で離婚スンナつーかそれくらいで別れちまうんだったら結婚スンナ、ですよ。少なくともウチはそうで、聞いた範囲では特段DVだとか浮気だとか決定的な原因があったわけではない。でも、とりわけ日本においては離婚した場合子供は母親が引き取るみたいな社会の風潮があるし、実際男なんてみんなダメなところのひとつやふたつあるわけで、まあしょうがないよねみたいなのがスタンダードだと思う。そんで母方の家族と暮らしている中では、とにかく父親とか父方の家族が悪く言われるし、それを素直に聞いてる子供としては父親に原因があったから離婚したんだと刷り込まれる。ただ父方の正月の集まりとかに行ってみると、(いやこれ、こっちの家族のほうが普通に首都圏郊外に住む一般的な中産階級って感じじゃん)って気がつき始める。そこらへんのモヤモヤした思いっていうのが、スリー・ビルボードだと明確に描かれていて、「やっぱそうだよね!?よね!?」ってなってしまった。ミルドレッドはずっと父親やそのガールフレンドの悪口を言っていて、確かに父親はいい年してあんな若い女と付き合ってるし、看板燃やしちゃうし、ダメ人間なところもあって、ガールフレンドもなんか頭悪そうなティーンエイジャーだし、概ねそのとおりではあるんだと思う。でも子供から言わせりゃ親の都合で結婚して子供生んで離婚して訳もわからないまま母親に引き取られて貧乏ったらしい生活させられて物質的にも精神的にもつまらない暮らしをさせられて、ダメなところもあるかもしれないけど父親と暮らしたほうが多分これ精神衛生上よかったよ!って思うのはもう本当によく分かる。シングルマザーだから気負って厳しくしてるのか知らないけど、それアンタの都合だし!スリー・ビルボードの娘に関してはそれが直接の原因になって死んじゃったわけだから救えないでしょ!だもんで父親のガールフレンドのキャラクターがひっくりかえされていくところとか、すごく感心したし、しっくりきました。「お前そうやって相手のことをバカだって見下してるけど、お前も別に賢くねーから!!」

とにかく完全に私怨みたいなもんだし、もう一度言っておくとミルドレッドは悪い人じゃないんだけど、でも、この感覚を、この作品と共有できたということが自分の中で何よりも救いになりました。当然母方の家族は父親を一方的に悪く言うだけだし、可愛がられてる兄はそれを素直に受け入れて、ただつまはじきにされた自分だけが(少なくともこれって客観的じゃないだろ!?)と常々思っていたのが、これは自分だけのものじゃないということが確認できたということで、アカデミー作品賞は獲れなかったけど、自分にとっては特別な一本です。

 

ひとつ、どうでもいいことなんですが、ミルドレッドが歯医者でドリルを指にアカンことするシーンがあるんですが、あれってアウトレイジのオマージュだと思うんですよね。マクドーマンド監督の前作『セブン・サイコパス』で『その男、凶暴につき』を見るシーンがあるので、やっぱりタケシ映画オマージュでしょ。

 

追記:3月6日現在見た最新公開映画ランキング

 

  スリー・ビルボード 

A+ ブラックパンサー 

  デトロイト シェイプ・オブ・ウォーター

A- バーフバリ:王の帰還 

  勝手にふるえてろ

  15時17分、パリ行き

  キングスマン:ゴールデン・サークル サニー/32