2020年に見た映画とか②~『ナイブズ・アウト』『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

〇『ナイブズ・アウト』

 去年に『トイ・ストーリー4』の感想で書いたことと大体おなじ。まあ『グラン・トリノ』ってことなんだけど、アメリカの魂がWASP的なアメリカの手を離れて新しいアメリカ人に受け継がれていく話が好き。それは必ずしも新しい移民がアメリカナイズ(=WASPの作り上げたアメリカ社会の既存の規範に同化していくこと)されることと同義でなく、人種や性別、文化の壁を越えてふたりの魂の通じ合う世界が立ち上がる瞬間の感動であって、その世界を埋めるものが各自の思い描くアメリカ的理想なんだと思う。

本作の中でも、個人的に好きなシーンは、マルタと囲碁をしていたハーランが、負けそうになって碁盤をひっくり返すところ。素直に見ればヤケを起こすヤンチャな老人なのかというシーン。なんだけど、ハーランが”ちゃぶ台をひっくり返す”人間であると示しているのは意外と重要かもしれない。それは彼が看護師のマルタに遺産を相続させたこととも地続きだから。では、それとは何かというと、フロンティアスピリットや猟官制のメタファーではないだろうか。自らの故郷を捨て、まっさらな荒野の大地に踏み出した先人たちへの賛歌であり、大統領の入れ替わりに伴って多くの公職者がごっそりと入れ替わる社会システムのラディカルさであり、要するに、全く新しい状況に飛び込んでいけるアメリカの”自由”さそのものである。

Twitterで政治ウォッチャーみたいなオタクが本作を「最近の(なんかマイノリティがいい思いして白人が悪し様に描かれる)ポリコレ映画」とクサし、当然映画館に映画なんて見に行かないオタクたちがそれをリツイートしているのを見てひどく気分を害されたことがあったが、そんな感想は表面も表面しか見えていない人間の戯言だ。むしろ『ナイブズ・アウト』は、今日的な政治的?状況にあってこそ、アメリカの揺るがないオリジンに立ち返り、それを継承することで、統合していく過程なのだ。

 

〇『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

若草物語』の何度目かの映画化。監督グレタ・ガーウィグで主演シアーシャ・ローナンの『レディ・バード』座組。

この映画を見て分かるのは、とにかくグレタ・ガーウィグが信用できる人間だということ。自分が原作を読んでモヤっとしたところをちゃんと解消してくれるので、「解釈、一致!」と叫びたくなる。言わずもがな、その頂点はラスト。例えば少年漫画でもそうだけど、とりあえず出てきた主要な男女のキャラクターを、まるでパズルゲームでもしているかのように、なんとなく適当な組み合わせで結婚させていく最終回というのは萎えるものである(シャーマンキング、ナルト、ブリーチ、最近だと鬼滅の刃とか)。本作は、ジョーの結婚という結末の虚と実を曖昧なものにして幕を閉じることで、その種の結婚規範、と強い言葉を使うまでもなく、じゃじゃ馬で自由に振る舞うジョーが社会に取り込まれていくことの納得できなさをひっくり返してくれる。

しかも、それを一切乱暴に感じさせることなく、上手に着地させる点に、グレタ・ガーウィグの手腕が光る。原題は『Little Women』(つまり「若草物語」)であり、邦題の『ストーリー・オブ・マイライフ』というのが、やや冗長で説明的に感じるのだが、しかし、本作の性質をそれなりに表していることも事実である。時間軸をシャッフルして、ジョーが家族やローリーたちと過ごした半生を振り返りながら「若草物語」を書くに至るまでを描くこの映画は、まさしくナラティブに依って立つ物語だからだ。そして、ナラティブであればこそ、「ジョーは結婚したのか否か」をジョーの語りの中において曖昧に濁すことが自然な作劇足り得ている。こうしてみると、去年のアカデミー賞で(本作は日本で公開前だったからなんとも言えなかったけど)これが脚色賞も脚本賞も逃したのが不思議でならない。

また、シアーシャ・ローナンはじめ、キャスティングが善いのも本作の魅力のひとつ。ボブ・オデンカークが出てくると嬉しいとか、ティモシー・シャラメがニクいとか色々あるんだけど、個人的に注目すべきはフローレンス・ピューの妹力(いもうとぢから)。フローレンス・ピュー演じるマーチ姉妹の四女エイミーは、一応小学生くらいの年齢設定。のはずなのだが、1996年生まれのフローレンス・ピューは、どうみても小学生に(中学生にも)見えない。学校の教室のシーンでは、周りは相応の小学生くらいの子役が座らされている中で、一緒になって座っているけれども明らかに浮いているフローレンス・ピューの可笑しさは、正直今年見た映画で一番面白かったかもしれない。しかし、姉妹の間でじゃれ合っているときの、小生意気で子憎たらしい、けど天真爛漫で可愛げのある末っ子ぶりは、中々目を見張るものがあって、普段は姉派で鳴らしている自分としても認めざるを得ない妹力(いもうとぢから)だった。昨年のアカデミー賞において、『ストーリー・オブ・マイライフ』から演技の賞でノミネートしたのがフローレンス・ピューだったというのも納得である。